Time is gone
「じゃ、早く帰らなきゃ」
 立ちあがる僕に対し、祖父は続けた。
「光彦がわしにプレゼントなど……いよいよわしも、天に召される日が近いかのう」
 僕は呆れ顔で座り直した。
「だから、じいちゃんの冗談はナンセンスなんだよ!」
 そのとき、祖母が慌ててやってきた。
「雪が降るのかい?」
「じいちゃんのくだらない冗談」
「なんだい、まったく人騒がせなじいさんだね」
 そう言い、素早く踵を返した。
「あぁそうだ光彦、夕飯は食べてくかい?」
 台所に戻りかけた祖母は、その足を止め、尋ねて来た。
「そうしたいけど、家で食えなくなるからね。そうすると怪しまれるし、パス」
 そうかい、そう言うと今度こそ、祖母は台所に消えて行った。
「ところで何でまたわしにこの時計を? ……分かったぞ。お年玉が近いから、今から胡麻を擦っておく戦法じゃろ?」
 僕は心外だ、そう言わんばかりに溜息を吐いた。僕の好意は、下心としか思われないのだ。
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