Time is gone
Case3 陽子


 バタン、車のドアが閉まる音が、真夜中の住宅街に響いた。その音はいつも大袈裟に響き、私を憂鬱にさせた。こんな時間に帰宅するお前は世間から疎外された人間だ、そんなふうに聞こえるのだ。
「エリカちゃん、明日はオフでしょ?」
 助手席の窓が音もなく開き、送迎しかできないボーイが運転席から身を乗り出してきた。
「そうだけど、何?」
「オフを確認するんだから、要件は分かるでしょ?」
「つまらない冗談なら止めて、さっさと行って。エンジン音がうるさくて近所迷惑よ」
 ボーイは舌打ちし、わざとらしくエンジンを噴かし、車を急発進させた。
「冗談だけじゃなく、中身までつまらない男」
 私はそう呟き、マンションのエントランスに足を踏み入れた。私は千歳烏山にある閑静な住宅街にそびえる、高級賃貸マンションに住んでいた。築浅オートロック、駅近のそこは、月々の家賃が二十万もした。
 なぜそんな高級マンションに住めるのか、なぜ送迎がいるのか、それは私が風俗嬢だからだ。高収入であること、そして仕事柄帰宅は終電を過ぎることが理由だ。
< 170 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop