Time is gone
玄関の扉を開くなり、私の機嫌は一層不愉快なそれとなった。
「ちょっとトシ、今何時だと思っているのよ! ちょっと聞こえているの!」
私の怒声は、部屋中に鳴り響くロックサウンドで掻き消された。急いで靴を脱ごうとするが、膝下まであるブーツは中々脱げない。そのことが私をより一層不愉快にさせた。業を煮やした私は、土足のまま居間に上がり、ステレオコンポの電源を切った。
「何すんだよ! もうじきライブが近……」
「あんた今何時だと思っているの! こんな真夜中にギター何か掻き鳴らしていたら、近所から苦情が来るでしょ!」
男は私の怒声に怯むこともなく、ひょうひょうとした態度で答えた。
「大袈裟だな。大丈夫だよこの家なら、このくらいの…」
「ここは私の家なのよ!」
うるせえな……、男はそう呟き黙った。男に対して一番効果的な言葉を、私は熟知していた。
「シャワー浴びて来るから、それまでには片付けとくのよ」
私はその場でブーツを脱ぎ、着ていた服を全て脱ぎ捨てた。半年も一緒に住んでいれば、裸の一つや二つを見られたとしても、何てこともない。そうじゃなくとも、裸など見られ慣れている。