Time is gone
 男の名前はトシ。漢字は忘れた。バンドでメジャーデビューを目指す彼は、自らを〈TOSHI〉と名乗っているため、漢字などどうでもいいのだ。
 ロクに働きもしない、いや、最近は全く働きもしないくせに口だけが達者で、いつも大義名分を振り回している男。確か、エックスだかセックスだかフェラチオだか忘れたが、そんな名前のバンドメンバーと同じ名前だとか言って、「俺もビックになる運命なんだ」何かある度にそうほざいていた。
 なぜそんな男に惹かれ、同棲など始めてしまったのか。駄目な女には、駄目な男しか寄り付かないのだろうか。
 熱いシャワーを頭から浴び、入念に歯を磨き、化粧を落とすと、ドレッサーに映る素顔をまじまじと眺めた。
「私は一体、何をしているの?」
 もちろん、もう一人の自分がその問いに答えるはずもなかった。
 鏡よ鏡よ鏡さん、私は一体何をしているのでしょうか? ……くだらない。
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