Time is gone
 最近永遠の若さ、美しさのためであれば形振り構わずに振舞った、クレオパトラや楊貴妃の気持ちが痛いほど分かるようになっていた。昔、その正気の沙汰とは思えない異常行為を聞いたときは、鳥肌が立ったにも関わらず。
 あれは高校生の頃、私が一番輝いていた時代。あの頃の私が今の私を見たら……、きっと東京何て街には来なかった。田舎で井の中の蛙でいた。きっと、それが正解だった。
「あの頃に、戻れたら……」
 私は、無意識の内にそう呟く回数が増えていた。
 あの頃に、戻れたら……。
 そのときなぜか、私の脳裏にとある少年の顔が浮かんだ。今日、店で大サービスをしてあげた少年のそれだ。
 私は立ち上がり、床に転がったままの黒のバックを拾い上げた。デザインと使い易さが気に入り、このバックは二年以上愛用している。お陰で所々ほつれ、シャネルという威厳を損ない始めていた。
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