Time is gone
「源蔵さん、この度は何と申し上げれば……」
火葬を待つ間に設けられた昼食の席で話掛けてきたのは、新潟に住む妻の弟だった。
「あぁっ、これはこれは。遠い所からご足労いただき、妻も喜んでおります」
「もっと早く掛け付けたかったのですが、何分足腰が悪くて。それに加えて春休みでしょう。新幹線のチケットも中々取れず、ご迷惑をお掛けいたしました」
義理の弟は、日本酒をわしのグラスに注ぎ足し、再度口を開いた。
「不幸は重なると言いますが、まさかこんな形とは……。神も仏もあったものじゃないですな。オッと、仏様の前でしたな」
一人笑う義理の弟を尻目に、わしは日本酒を一口飲んだ。とても笑えるような気分ではなかった。
「今後はどうなさるおつもりですか? やはり、息子さんたちと一緒に?」
「わしは今の家で一人、暮らします」
その頑なな口調に、義理の弟は一瞬怯んだ。
「お気持ちは察します。息子さんたちも大変なときですからね……。ですが一緒に住まれた方が、安心して暮らせはしませんか? わたしたちもいつお迎えが来るか分かりません」
その視線は、まだ見ぬ天国に向けられていた。遠くて近い、そこに。