Time is gone
「ご心配いただけるのはありがたいのですが、わしの意思は変わりません。家を空ければ、ばあさんが悲しむ。それに……あの子のためにも」
 ただいま、そう言って勢いよく開かれ、閉まる扉の音を、思い出していた。
「そうでしたか……。何か困ったことがあれば、すぐに相談してください。見てのとおりこの老体です。何ができるわけでもありませんが、できる限りの協力はさせていただきます」
 義理の弟は、再度わしのグラスに日本酒をなみなみと注ぎ足し、その場を後にした。
 あいつらの回し者か。だがわしの意思は変わらん。お前らのようなバカ共に面倒を見てもらうくらいなら、一人野たれ死んだ方がましじゃ! 
 視線の先には、葬列者に酒を注いで回る、息子夫婦の姿があった。
< 249 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop