Time is gone
 仕分け作業を終えた俺は、さっそくそれらを現金に換えるための行動に出た。盗品を長時間手元に保管しておくことは、それだけでリスクを高める。携帯を取り上げ、アドレス帳を開くと、通話ボタンに触れた。
「ヤァッ、ハッカケ」
「ヤン、さっそくだが、ブツを渡したい」
 ヤンとは、取引相手だ。貿易会所の社長という肩書だが、貿易会社とは名ばかりの密売業者だ。社長というのも名目上で、実際は中国かどっかのマフィアだ。
 俺はヤンから、「ハッカケ」と呼ばれている。前歯が一本欠けているから、「歯っ欠け」という単純な理由だ。お互い本名など知らない。知る必要も無い。余計な個人情報は、いざというときに自らの首を絞めかねない。相手にしているのは、マフィアなのだ。
「ハッカケ、イイシゴトスル。イツデモトリイクヨ」
「じゃ今晩八時、いつもの場所で」
「○○―○―○○○○ネ」
 ヤンが口にしたのは、車のナンバーだ。俺はそれを素早くメモした。
「分かった。じゃ」
 ヤンの返答を待たずに電話を切った。その携帯も、もちろん正規のルートで手に入れたものではない。裏の世界には、そんなものはゴロゴロ転がっている。
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