Time is gone
「もう、戻れないんだね? 戻る気もないんだね。じゃ、私が戻してあげる」
 雪菜はそう言うと、テーブルの上から時計を取り上げた。
「……何の真似だ? 返せよ。そいつは関係ないだろ。返せよ!」
「この時計を手にしてからしんくんは変わった! おかしくなった! だからね、こうするの」
 雪菜は素早くベランダまで移動し、勢いよく窓を開けた。
 その瞬間、十二月の冷たい風が部屋の中を吹き抜けた。
 裸足のままベランダに出た雪菜、俺が追いつくよりも一瞬早く、雪菜は時計を持った腕を振り上げ、思い切り振り下ろした。
 月明かりを受け、綺麗な放物線を描いた時計。流れ星のようだった。ベランダ沿いに面した道路を越え、遊歩道の辺りで頂点を迎えたそれは、重力に身を任せ、徐々に下降し、ポッチャン、という音を立てて、川の中に沈んでいった。
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