くじら



「敬語は…、他人に対して距離をおきたいからです。距離があいまいになって…自分が分からなくなるのが嫌なんです。」




分からなくなる?






「……分からなくなって君を傷付けたくはないです。だから…敬語で話すんです」





私は先生の方を向いた




とても近い距離に居たことに少しのけ反った




「せ……先生はそんな事しないと思います。してもきっと何か理由があるだろうし……」





「……瑠璃子さんは僕を過信しすぎですよ。そんなに信じないで下さい」




にっこり笑いながら言う




「そんなことはないですよ…、先生」




先生は無言で笑みを浮かべた。



「―優しく見えるのは必死に隠しているから。…君には、優しい藤堂先生の部分だけしか見せたくないです。」




優しい藤堂先生。






―久白兄さんの汚い所を見てないからそんな事が言えるんです





汚い所…





わたしには見せたくない、汚い所






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