くじら






裏庭は人はいなかった
旅館からは少し離れたとこにあった





生ぬるい風が吹いている。





「あ、潮の匂いがする。やっぱり海が近いからですね…」



「瑠璃子さんは海好きですか?」




先生は海側を見ている




「嫌いではないですけど…、夜はちょっと怖いと思います。…真っ暗で見えないですから」




「…そうですね。」





“くじら”



「先生は海はお好きですか?駅に着いた時も見てらしたけど…」





ザアァと海の音がする。





「嫌いではないですよ。下宿先に海がありましたから…。」




下宿先。


澄さんを好きになった場所





「くじら…」



先生はバッと振り向いた





「昴さんから聞きました。先生のあだ名が“くじら”だって…」



―あだ名嫌いみたいでね





―藤堂の人間は怖がって呼ばないけど…






「…すいません。先生」




< 126 / 370 >

この作品をシェア

pagetop