くじら
裏庭は人はいなかった
旅館からは少し離れたとこにあった
生ぬるい風が吹いている。
「あ、潮の匂いがする。やっぱり海が近いからですね…」
「瑠璃子さんは海好きですか?」
先生は海側を見ている
「嫌いではないですけど…、夜はちょっと怖いと思います。…真っ暗で見えないですから」
「…そうですね。」
“くじら”
「先生は海はお好きですか?駅に着いた時も見てらしたけど…」
ザアァと海の音がする。
「嫌いではないですよ。下宿先に海がありましたから…。」
下宿先。
澄さんを好きになった場所
「くじら…」
先生はバッと振り向いた
「昴さんから聞きました。先生のあだ名が“くじら”だって…」
―あだ名嫌いみたいでね
―藤堂の人間は怖がって呼ばないけど…
「…すいません。先生」