くじら




あのとき



先生は うてよと言ってた




ただの私の勘違い
かもしれないけど



死にたがって
いるみたいだった



ように感じた



だから、先生を突き飛ばした






…死んでほしくなかったから






「…先生いなくなってしまう、と思ったから…」




「……そんな、訳ない。二度とするな、絶対に……」








いつもと違う話し方



きっと
こっちが本当の先生だ…




少し恐いけど、






「俺の…前で死なないでくれ…」






「はい…。気を付けます、先生。ひぃゃっ」






首筋を指で触られた




「…怪我したんだな。ごめん」



指が包帯を触る
背筋がぞくっとした




「い……いえ、だっ…大丈夫で」



あ、危ないっ


先生の力は
ふっと緩んだので
ベッドから立ち上がった





「……瑠璃子さん?」



「…お、織人さんを呼ばないと…」




私はドアに向かう

先生は ふぅんと言った



「綾部織人さんと知り合いになったんですか…」




「は…い。何か…」



先生はベッドから
降り近付いてきた






「別になにも…」



無表情で私を見る






なにもない
わけないじゃないっ



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