くじら












澄さんはわざわざ九十九里まで行きたい





と言った。
遠いですよ、と言うと




時間はあるから良いじゃないと返された






確かに時間はある…




























やっと九十九里浜についた





潮の匂いがツンと鼻にくる





「やっぱり暑いわね、」


「当たり前じゃないですか」





澄さんは海の近くまで歩いて行った






浜には、少しばかり人がいた




「……きれいね。変わらないのね。……あの人と来た時と同じなのね」





あの人とは先生の事だろう


「…先生と来られたんですか。わざわざ九十九里まで」



波の音が聞こえる




「夏にね。いまはあの人も此処には来たがらないだろうけど…」





「……」





来たがらない…
それだけ時間が流れたのだ






そう言うにはあまりに澄さんは悲しそうな顔をしていた





だから何も言わなかった。



違う―…言えなかった






「お弁当食べましょう。作ってきたのよ」



両手に持ってた大きな風呂敷を見つめていた
















< 237 / 370 >

この作品をシェア

pagetop