くじら










須藤家…









「……今晩は、藤堂さん」


「こんばんは。」



窓から外を眺めてたらかすかに人の気配がした




振り返り、彼に言った


「……知っててもびっくりするわね。かろうじて人みたいな気配なんだもの、貴女」



「…かろうじてですか。」




「えぇ、」




真っ黒い着物を着ている彼はまるで闇そのもの…みたいだ



「…あの人は書斎にいるわ」


「わかっています…。すいません、安藤さん」



すまなそうな声




「……許さないわよ。けど許すわ、瑠璃子さんに頼まれたんですものね…。」





「彼女も心配していますから。…せめて貴方だけでも助けたいと」





闇に紛れる彼の声は小さいけれどよく響く




わたし知っています。
聡子さんが長袖着ている理由…




「…心配かけさせたわね、だから終わりにしなきゃいけないわ。」




「貴方は裏口にいて下さい、使いがそちらにいます。彼に従って下さい」





ゆっくりと私に言い聞かせる声




私は頷いて笑った。



こういう運命だったのね




瑠璃子さん。




「後を頼むわ、ありがとう藤堂さん」
< 310 / 370 >

この作品をシェア

pagetop