くじら
「祖父の事を兄は本当の父のように慕っていましたから、……祖父の最期を看取ったのも兄でしたし…」
「そうだったんですか…」
皮肉だ。父よりも祖父が父らしいなんて
「…兄と僕に勉強や作法を教えたのも祖父です。既に政治家としては引退していたし…。だから兄は父ではなく…祖父に似た人になった。父は祖父に似た兄を…憎んだ。自分ではなく、賞賛されるのは彼、だから兄が恋仲になった時ここぞとばかり罰した」
「……それは、」
祖父に似た…藤堂先生
彼を憎んでいる父親。
「なまぐさい話をしてすいません…」
先生の弟は静かに微笑んだ
「いえ。…でもなぜ僕なんかに…」
「…聞いてくれると思ったからだよ。兄によく似ている君なら…話してみたくなったんだよ」
先生の弟さんは、はぁと息をはいた。
いま初めて息をはくのを
覚えたみたいに…
深く…
彼に言われた言葉を俺は
頭の中で噛み砕いていた
ひとつずつ…順番に
外からノックの音がした
<目線終わり>