くじら

「…静加さん。」





「なんですか」




少し離れたとこから
パーティーの喧騒がする


「…教えてくれませんか。あなたが知らないと言った、藤堂久遠さんと先生の“約束”、知らないなら“約束”の存在すら知らないはず。なのに貴女は“約束”の事を知っていた。…知っているんでしょう」





静加さんは黙った


風がさぁと吹く…
この人も先生に似ている


けど何か違う
何かはうまく分からない


「…知ったらなにか変わるのですか」



「…わかりません。ただ、……」




君にはまだ
分からないかもしれないね



全ての人間が“義務”
だけで動けるがわけないよ…


彼の言葉が頭から離れない


義務でないなら
彼を家に縛り付けるのはなんだ?



「……彼があんなに拘るには余程の理由があるんだと…」




静加さんは ふっと笑みを浮かべた






「…他愛もない約束です。織人さん、」




「…他愛ない?」






「…それこそ…子供の指切りみたいな約束ですよ」





優しそうな笑顔

でもどこか寂しそうだった







〈目線終わり〉
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