くじら
〈織人目線〉
晩餐会場から出て
薄暗い廊下を歩いていた
「あ、織人さん」
「綾さん。話は済んだの…」
薄暗い廊下から彼女は歩いてきた
「えぇ。…やっとあたしの出番ね。雅昭様はまたあっちの屋敷に…」
「なんだ?」
「元気がないわ、…なにかあったの?」
綾さんにそっと頬をさわられた
「何もない…」
「あたしを騙せると思って?分かるわよ、…なにか辛そうだわ」
辛くなんか…と口に出た
けどそのさきが続かなかった
静加さんから聞いた話…
作戦…
「瑠璃子さんたちの事?大丈夫よ、きっとうまくいくわよぉ…」
笑って彼女は言う
脳天気な明るい声
子供の時は彼女の
この声がうざったかった
なにも分からないみたいなふざけた声
「……なんて、あたしだって不安だわ。初めてだもの、友達の為に財閥にケンカうるなんて…けどやっぱり考えたらそれしかないのよね」
でも
彼女は なにも考えずに
明るい声を出している訳じゃない
周りの人間を心配させないためだ…
なんて 優しい人間なんだろう