くじら
「…この上が例の部屋です」
榊さまは立ち止まり薄暗い階段の先をさした
「そうか…、悪いですが。榊さん瑠璃子さんを…頼みます」
「へ、先生…」
私は階段を上っていこうとする先生を見つめた
「すいません…ちょっと所用があるんです。先に行っててくれませんか、後で必ず追いつきますから…」
「でも…」
「大丈夫。ちゃんと行くから…それにこれは僕が片付けなきゃならない本当に最後の仕事だから…すまない…、」
先生は寂しそうに言った
そう言われたら私は責められない…
「必ず来てください。待ってますから、先生」
「…ありがとう、」
“本当に最後の仕事”
先生は階段を上っていった
私はじっと見ていた
上からかすかに光が漏れる
誰かの話し声がした
「行きましょう、瑠璃子さん…彼は大丈夫です。」
榊さまは私を促した
「はい…」
「心配なさらないで。道中長いからあなたに…道すがら全部話します。裏の作戦も…僕の事も…いままでの事全て…」
ランプの火が揺らりと揺れた