くじら

〈先生目線〉




階段からあがり突き当たりのドアを開ける



レコードの曲が流れていた




「…」





豪華な部屋に彼女は居た。




「澄さん…」




彼女の名を呼んだ
二度と呼ぶ事はないと思っていた名



「……久白くん」

学生の頃に戻った気がした…






「すみません、約束を破ってしまい…」


「約束なんて紙切れみたいに儚いものだから…いいのよ。」











久しぶりに彼女を見た



年相応に年をとっていたが
彼女自身の色気はまだ十分にある風貌をしてた…





「……あなたに言う言葉が見つからないの、久白くん…。私はあなたを裏切った…私を好きだと言ってくれたあなたを…」

澄さんは立ち上がり自分を見た




「……もういいんです、澄さん。僕は確かにあなたを好きだった、…あなたに裏切られた時はあなたを恨んだりもして…でも完全には嫌いになれない自分に苛々しました…だけど、」





ゆったりとした音楽が澄さんと僕の間に流れる





聴いていたい心地よさに一瞬、
言葉が途切れた…







外は夜…
明かりだけが彼女を照らす…





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