くじら
どこかからピアノの音がした。
「…先生…?」
明らかに上手いピアノ
耳をすまして音源を探した
これは何て言う曲かしら…。
きれいだけど悲しいピアノの音
この部屋かしら…?
「先生…?」
ドアを開けると
先生の後ろ姿が見えた
ピタッとピアノの音が止んだ
「瑠璃子さん…。すいません、煩かったですか」
「いえ、なんという曲ですか?とても綺麗だったから…」
先生は ピアノの蓋を
閉めながら教えてくれた
「夜想曲(ノクターン)ですよ。作者は忘れましたけど…、」
夜想曲だから
寂しく聞こえたのかしら。
「先生はピアノ弾けたんですね、ちょっと驚きました…」
「昔、少しかじった事があって…。もう指が回らないですね」
手を握ったり
閉じたりを繰り返した
さっきので
指が回らないって
昔はどれくらい
上手かったのかしら?