くじら




「……」




なぜか先生は黙っている




そんなに酷い事
言ったつもりはないのに…




「要するに、…わたしは彼女じゃないですし、ちゃんと見て欲しいって思ってますけど。そんなすぐには先生も整理はつかないでしょうけど……、ええと…つまり」




言いたい事は
決まってるのに

上手く言葉に出てこない




なぜ?




「……今は私を通して彼女を見てしまうでしょうけど、それは仕方ないです。ずっと先生が好きだった人ですから…」




すっと息を吸う






「…今は彼女の代わりでいいです。……ゆっくりでいいから私もちゃんと見て下さい。…見ないうちに遠ざかるのはやめて下さい。私だって……悲しいです」






そう…悲しい。




先生だって悲しいけど
私も悲しい…




あと悔しい…



先生を今まで


離さないでいる彼女の存在が…



報われないのに思い
続けている先生が可哀想…






先生は黙ったままだった






私は ばつが悪くなって布団に潜り込む





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