宝箱
偽りと本当の間で…
あなたは人を愛したことがありますか?
あなたは人を愛することができますか?
私は…できません。
こんこんと降る雪のなかで私は一人流れに逆らって歩いていく。
人の流れに時々肩をぶつけて歩く。
そんな時、さっきまで人の流れから守ってくれた彼の熱の残りがジンジンと熱くなる。
「たくや…」
声に出してしまったことを後悔した。
名前を声にしてしまった途端に涙が溢れてきて止まらなかった。
愛していないと言って別れを告げたあなた。
愛していないと、そう思っていたのに…彼が恋しくて仕方がない。
「たくやぁ…」
再び呼んだ名前はもう届くことはない。
私は自分を偽っていたのかもしれない。
愛していないと思うことで私は逃げていたのかもしれない。
もう戻ることはないあなたとの関係。
悔しくて涙が止まらない。
「りつ…泣いてるの?」
後ろからかけられた声は、優しくて、あたたかい彼の声。
そんなハズはないと思いながら、少しの期待を胸に振り返る。
「た…くや…」
名前を呼ぶと彼は優しく笑って抱き締めてくれる。
彼の腕のなかは温かくて、また涙が溢れてきた。