ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】


 目的地に到着し、俺が車を降り立つと、日置はすぐさまアクセルを目一杯踏み込み、日置を乗せた軽自動車は、アッという間に見えなくなった。


 目的の家の表札には『久野』という苗字。


 蔦山さんの父親は案の定、既に住居を変えていた。


 探し物というのは、探している時は見つからないものなのだ。


 今ここに住んでいる久野さんが、この家に以前住んでいた人間のことを知っているとは到底思えない。


 不動産の仲介屋が、この家を買おうとしている久野さんに、蔦山家の黒歴史を語った可能性もゼロだ。


 ご近所さんを当たるか、と踵を返した時、隣の家の門から、推定年齢50代半ばの、ごく普通のオバサンがフラリと姿を現した。


 チャンスとばかりに駆け寄り、声をかける。


 手帳を見せると、「あら、まぁ…」とオバサンは左手を頬に当て、珍しい物でも見るかのような目で俺を見上げた。


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