ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
「そんで、隆治の拳もだいぶやられてたなぁ。」


 何故だか、蔦山さんを気遣うような事を言う。


「あいつぁ、真っ直ぐで、曇りのない澄んだ目をしてた。」


 懐かしむような遠い目をして、じいさんは再び紫煙を吐く。


 何が言いたいのか、よくわかんねぇ。


「あいつは物事を真っ直ぐ見る。だがなぁ、その眼差しは、決して逸らしもしねぇが、物事を正面からしか見ちゃいねぇんだ。」


 このままだとじいさんの『蔦山ビューティアイ説』が延々続きそうだ、聞きたいことだけさっさと聞いてしまおう。


「動機は何だったんですか?」


 近所のオバサンの話から、おおよその見当はついていたが、真実を確かめたくて、何も知らない風を装って尋ねた。


「希世が… 親父の再婚相手の連れ子な、その希世が、親父に乱暴されていた。まぁ簡単に言うとレイプだな。

 隆治は希世のこと、そりゃあもう、本当の妹以上に可愛がってたからな。とうとう堪忍袋の尾も切れちまったってとこだろうなぁ。」


 やっぱり… 性的虐待があったのか。


「それで、蔦山さんの処分は?」


「親子喧嘩ってことで、不起訴処分になったな。親父も親父で、もう隆治とは関わりたくないって逃げ腰でよ、親子揃ってダンマリだ。希世のことでやましいってぇのもあったろうさ。」


 要は、『うやむや』ってことですか? そして蔦山さんの父親は動けるようになった途端、逃げるように行方をくらませた。


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