ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】


 蔦山隆治が高校1年だった夏、父親の明文が、突然見知らぬ女を家に連れ込み、これから一緒に暮らすのだと言った。


 女の名は露子。


 自分が女盛りだと誇示するような服装も、色気のある仕草も、酷く鼻をつく香水も、露子の全てが隆治は気に入らなかった。


「『お母さん』って呼んで… な~んて、そんなのいきなりは無理よね。」


 そう言って愛想よく笑う露子にも嫌悪感を覚え、吐き気がするほどだった。


 隆治の拒絶的な態度も、露子は何ら気にすることなく、蔦山家に我が物顔で居座った。


 露子には希世という名の連れ子がいた。


 蔦山の家に初めてやって来た日、希世は余所行きの白いワンピースに身を包み、何も言わず、ただ、幸せそうに微笑んでいた。


「希世、お兄ちゃんよ。」


 露子がそう紹介すると、


「おにい… ちゃん?」


 希世は、確かめるようにゆっくりと発音し、隆治を真っ直ぐ見つめ、そして嬉しそうに笑うのだった。


 ふわふわした希世の笑顔を目にし、隆治は『真っ白だ』と思った。


 希世は着ているワンピースと同じ、真っ白な存在。


 その時の隆治には、それが、とても悲しいことに感じ、辛くなった。


「俺をそんな風に呼ぶな。」


 吐き捨てるように言い、家を飛び出した。


< 178 / 305 >

この作品をシェア

pagetop