ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
蔦山隆治が高校1年だった夏、父親の明文が、突然見知らぬ女を家に連れ込み、これから一緒に暮らすのだと言った。
女の名は露子。
自分が女盛りだと誇示するような服装も、色気のある仕草も、酷く鼻をつく香水も、露子の全てが隆治は気に入らなかった。
「『お母さん』って呼んで… な~んて、そんなのいきなりは無理よね。」
そう言って愛想よく笑う露子にも嫌悪感を覚え、吐き気がするほどだった。
隆治の拒絶的な態度も、露子は何ら気にすることなく、蔦山家に我が物顔で居座った。
露子には希世という名の連れ子がいた。
蔦山の家に初めてやって来た日、希世は余所行きの白いワンピースに身を包み、何も言わず、ただ、幸せそうに微笑んでいた。
「希世、お兄ちゃんよ。」
露子がそう紹介すると、
「おにい… ちゃん?」
希世は、確かめるようにゆっくりと発音し、隆治を真っ直ぐ見つめ、そして嬉しそうに笑うのだった。
ふわふわした希世の笑顔を目にし、隆治は『真っ白だ』と思った。
希世は着ているワンピースと同じ、真っ白な存在。
その時の隆治には、それが、とても悲しいことに感じ、辛くなった。
「俺をそんな風に呼ぶな。」
吐き捨てるように言い、家を飛び出した。