ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 降り注ぐ雨の下、うずくまる様にしてしゃがんでいる、満遍なく濡れた希世の背中に、隆治は胸に、引き裂かれるような痛みを覚えた。


 ゆっくりと近づき、差した傘を傾けた。


 雨は依然、激しく希世の周囲を打ち付けているのに、自分がいる場所だけ雨が止み、雨音が微かに遠くなった気がして、不思議そうに希世はゆっくりと見上げる。


 希世の瞳には、赤に白の水玉模様の希世の傘、そして、心配そうに希世を覗き込む隆治の顔が映る。


「帰ろう。風邪をひく。」


 隆治がそう言うと、希世は悔しそうに唇を噛み締め、再び俯いてしまった。


 希世の足元には、みかん箱サイズの空のダンボール箱、雨でぐっしょり濡れて、ヨレヨレになっている。


 しゃがんでいる希世の膝の上には、さきほどの子犬がうずくまるようにしてフルフルと小刻みに身体を震わせていた。


 その小さな命を守ろうとするかのように、希世は自分の上半身と細い両腕で、子犬を囲うようにして、バリケードの役割を必死に果たそうとしている。


 あのヨレたダンボールの中へ、この子犬を戻すことなど、希世に出来るはずがない。


 ともすれば、希世は死ぬまでここで、こうしているかも知れない。


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