ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 隆治は並ぶようにして希世の隣にしゃがむと、


「兄ちゃんの部屋へ連れて行こう。母さんには内緒だ。」


 戸惑いながらも、そう言ってみる。


 不意に自分の口から出た『兄ちゃん』という呼び名に、自分自身が驚き、苦笑する。


 そして隆治は、真っ白な花が、ふわりと可憐に咲くのを見た。


 白い花は赤い傘に良く似合う。


 憎んでも憎み足りないこの薄汚い世に、こんなにも美しいものがあるのを、隆治はこの時初めて知った。




 子犬には、希世が『シェフ』と名付けた。


 『ジェフ』の方がそれらしいと思うも、テレビの料理番組で見た『シェフ』がとても格好良かったのだと、キラキラしながら語る希世に、


「いい名だ。」


 と言って隆治は笑った。


 何色にも染まらない真っ白な存在である希世は、隆治の『全て』になった。


 その神々しいほどの清らかさに比べたら、自分の命の価値など、虫けら以下に思えた。


 希世の輝きを守るためなら、自分の命など簡単に投げ出せる、それほど希世は、隆治にとって、この世で決して失いたくない、唯一の存在だった。


 それが、実の父親、明文によっていとも簡単に壊されてしまう。




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