ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 部屋の奥に配置されたシングルベッドには、胸部をはだけた色白で華奢な女が仰向けに横たわり、その上に重ねた身体を、前後に激しく揺らす、服を着たままの男。


 蔦山の目にはもう、その男の姿しか映らない。


 男の元へ音も立てず近寄ると、いきなり髪を鷲づかんで、力任せに自分の背後に放り投げた。


 男は床に叩きつけられ呻き声を上げた。


 蔦山はゆっくりと身体を回旋させると、足を重そうに動かして男に近付く。


 その殺気立った表情を見上げ、二十歳を超えたか超えないかの若い男は、恐怖に全身をカタカタと震わせた。


「そんなクズより、早く彼女を!」


 理沙の叫ぶような声に、蔦山はどうにか我を取り戻した。


 すぐさま振り返ってベッド脇に駆け寄り、その上の、まるで捨てられた遺体のような女の上体を抱き上げ、


「希世……ごめんな」


 耳元でポツリと小さく呟いた。


 途端、希世は火が点いたように泣き出した。


「お兄ちゃん……お兄ちゃんごめんなさい。希世、また……お兄ちゃん以外のヒトと……」


「大丈夫だ、心配すんな、もう大丈夫だから」


 蔦山の口からは、そんな噛み合わない言葉しか出て来なかった。


 だがどうすることもできなかった、ただ、きつく希世を抱きしめることしか……






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