ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
「ありさか……りゅういち……」


 消えそうな声で男の名を呼びながら、尾藤は額に汗を滲ませる。


「そんな……親父……」


 社員の一人が、絶望を湛えた言葉を口にした。


 その場にいた者たちの士気がみるみる下がり、空気がひんやりとした。


「使いもんにならないヤツは、利用され消される。たとえそれが肉親だろうとな。

 お前らがいるのは、そういう世界だ。全員ムショ入って、ゼロからやり直せ」


 兄貴は社員たちに向かって、優しい口調で言った。


 格好いいぜ、兄貴……


 この中に、兄貴の言葉に胸打たれて更正するヤツがいるかどうかは別として、やっぱり兄貴は格好いい。


「この建物は、すでに警察が包囲している。ゲームオーバーだ、尾藤」


 谷口さんがそう言うと、尾藤はガクリとうな垂れた。






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