ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 まだだ、抱き締めたいけど、まだその時じゃない。


 俺は上着のポケットから、乃亜に渡そうと持って来た物を取り出し、乃亜の手を取ってその掌の上に載せると、そっとその手を包み込んだ。


 俺の手が離れると、乃亜がゆっくりと握っていた手を開く。


 それは、ネックレスだった。


 乃亜が結婚を承諾してくれたら渡そうと思っていたリングを、チャームにしたネックレス。


 再び乃亜の濡れた瞳が俺を見上げた。


「乃亜、ごめん。俺もう、結婚とか子どもとかどっちでもいい。乃亜がその気になるまで、例え一生かかったって、俺待つよ、待てる。

 だから、側に居てください。ありきたりだけど、俺、お前じゃなきゃ駄目なんだ」


 乃亜の瞳からポロポロと零れ落ちる滴は、とても綺麗で、どうしようもなく愛しくて……


 また抱き締めたい衝動にかられるが、『いいや、まだだ』と自分自身に言い聞かせる。


 乃亜は俯き、空いている方の手で涙を拭うと、チェーンを両手で持って金具を外した。


「付けようか?」


 俺が手を差し出すと、乃亜は微笑みながら首を左右に振る。


 乃亜は、チェーンの片端だけを持ち、反対の掌にストンとリングを落とし、チェーンはしていたエプロンのポケットに入れた。


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