ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 重そうに肩を落として俺の部屋を出て行く谷口さんの背中は、酷く弱々しくて、とても小さな存在に見えた。


 妻と子、その二つの命の重さに、ミクロの差もないだろうけど、谷口さんや兄貴たちは、究極の選択を強いられた時に瞬時に判断する能力を、数々の戦闘経験で身につけてしまっている。


 咄嗟に妻である多恵ちゃんを選んでも、誰も谷口さんを責められないさ。




「そろそろだな。」


 兄貴が手入れの済んだ銃を、腰のホルスターに差し込みながら立ち上がった。


 どうせそんなもん、速攻奪われるに違いないのに、敵に武器をプレゼントするようなもんじゃねーか。


 バカだな、兄貴は。


 けどその銃が兄貴を守ってくれたらいいと、微かな期待を抱かずにはいられなくて、俺は指摘するのをやめた。


 第一、敵がどう動くかの予測なんか、俺以上に兄貴の方がよっぽど長けているはずだしね。


 なんか策略でもあるのかも知れない。


 兄貴は嘘はつかない。


 『俺なら大丈夫だ。』


 兄貴はそう言ったんだ、絶対に死んだりしない。


 絶対に…



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