ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 途端、その場の空気に緊張が走った。


 殺し屋の方が俺に向けていた銃口を、すかさず兄貴に移し、それを握る手に力を込める。


 兄貴が落ち着いた足取りで、こちらに近づいて来ると、それまで人形のように微動だにせず黙って立っていた背の高い男もまた、ゆっくりと前へ歩み出た。


 歳は40過ぎたばかりってとこかな、大人の渋さを醸し出し、何て言えばいいか… 男から見てもヤバいぐらいセクシーだ。


 迂闊にも俺、見惚れたし。


 兄貴と男は向かい合うようにして立ち、ほんの数秒、お互い黙って顔を見合わせていた。


 その様は、二人がまるで目で会話しているように見えた。


 知り合いか? んな訳ねーか。


 不意に脳裏をよぎった自分のあまりにバカバカしい予想に、思わず苦笑する。


「銃を寄越せ。」


 男が低く言い、右手を差し出した。


 兄貴は表情一つ変えず上着の裾をめくり、涼しい顔で腰の銃をホルスターごと外すと、男の右手の上に乗せた。

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