ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
そして…
不意に静寂が断たれ、多恵はヤツラが帰って来たことを知る。
不愉快なほど下品な口調でのやり取りが部屋の外で聞こえる中、多恵がいる部屋に一人の男が入って来た。
その男、外の喧騒とは全くの別世界に存在しているような、そんな静けさを纏っている。
恐らくは、ヤツラと同じ裏社会の人間なのだろうが、その風貌はヤツラのような下品さや凶暴さは微塵も感じさせない。
男は静かに多恵に近付くと、目の前で片膝を落としてしゃがんだ。
「息子は無事父親の元に帰った。息子と引き換えに受け取った男が俺たちの要求を呑めば、お前も晴れて自由の身だ。それまで大人しくしていろ。出来るな?」
多恵は、頭を思い切り上下に振り、従う意思を全力で示した。
だが男の表情には何の感情も窺えず、男の言葉が信用できるかどうかもわからない。
多恵の不安は募る一方だった。
相変わらず部屋の外は騒がしい。
「こいつ、こんなとこにも物騒なもん隠し持てやがった」だの「もっと頑丈に縛り付けろ」だの、忙しなく捲くし立てる声。
余程の危険人物なのだろうか。