ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
「誰が同意なんか! あんたみたいなオジサンと、若くてピチピチな私が寝るわけないじゃない。」


 木戸の容貌に、一つも欠点を見付けられなかった多恵は、仕方がないので年齢を持ち出して罵ってみた。


 先程まで自分を『オッサン化している』と卑下していたくせに、今度は『若くてピチピチ』だと賞する多恵に、またしても吹き出しそうになるが、それを隠そうと木戸は慌てて顔を横に逸らして俯いた。


『この男、今一瞬笑わなかった?』


 多恵は不思議そうに木戸を見詰めた。


「木戸さん、その女に、あんま良く思われてないみたいっすね。」


 部屋の扉を片手で開け、今まさに出ようとしていた富樫は、多恵が木戸を罵る言葉を聞き、先程の不満もあってか、思わず、ほぼ無意識的に口走った。


 木戸は物言わず立ち上がると、颯爽と富樫の元へと向かう。


 落ち着いた動きであるのに、木戸の動作は全てが何故だかとても素早い。


 そして木戸の感情のない無表情に一層の恐怖を覚えた富樫は、足が竦んで動けなかった。


 木戸は富樫とは反対方向からドアノブを掴むと、力任せにドアを富樫の顔面へと叩きつけた。


 「ひゃっ」と短い小さな悲鳴を漏らし、多恵は横を向いて固く目を閉じる。


 富樫の鼻から血しぶきが舞い、富樫は顔面を両手で覆って身を屈め、激しい痛みに耐えながらも、「スミマセン、スミマセン」と木戸に何度も謝った。

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