ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
「……り、はじ……ちゃ……」


 わざと扉の向こう側では、はっきり聞き取れない程度の小声で多恵が囁く。


「あん? 何か言ったか?」


 その声に気づき、富樫が問い返した。


「だからぁ、せ……、き…みた……」


「はぁ? 何ボソボソ言ってやがんだ、聞こえねぇだろ!?」


 もどかしそうな富樫の声が次第に大きくなり、富樫が扉のすぐ傍へ来たことを確信し、


「『生理来ちゃった』って言ってんのぉー!!」


 自分自身の士気を高めようと大声で叫びながら、多恵は勢いよく扉を開けた。


 見事それは、富樫の顔面を直撃し、


「またかよ。」


 悲痛な声を発し、富樫は強打された顔を両手で覆い、前かがみになる。


 その横をすり抜け、多恵はテーブルへ向かって走ると、先程目を付けた灰皿を手に取った。


 富樫の背後に立ち、灰皿を両手で頭上に高々と掲げ、上体まで逸らし勢いを溜める。


 大量の吸殻が、パラパラと多恵の背後を落下していく。


 そして、ありったけの力を込めて、それを富樫の後頭部に振り下ろした。


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