ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 絵画から抜け出たような美しい男、完璧なまでに整ったその容姿は、一度会ったら忘れるなどということは、女ならば、いや例え男であろうと、有り得ないだろう。


 高校時代、同級生だった皆人の家に行った時、多恵はそこで生まれて初めて、『美しい』という形容詞が当然のように付けられるような男、『有坂龍一』に出会ったのだ。


 本当に自分と同じ人間なのだろうかとさえ疑ったぐらいだ。


 その男が皆人と同じ血を分けた兄弟だという事実は、当時皆人に想いを寄せていた多恵にとってすらも、信じ難いものだった。


 しかしその後、彼らの母『ポリーナ』が何者かによって殺害され、龍一は行方をくらませていた。


 もう10年も前の話である。


 当時、ポリーナ殺害の容疑は龍一にかけられていた。


 だが龍一に会ったことのある多恵は、真犯人は龍一ではないと信じて疑わなかった。


 あんなにも皆人を、そして家族を愛している者が、その幸せを壊したりなどするはずがないのだ。


 当時の記憶が多恵の中に鮮明に蘇る。


 抜け殻のようになってしまった皆人を、なんとか元気付けようと、無我夢中で奔走した。


 そんな懐かしさと、無事健在している龍一に再会できた嬉しさで、一時多恵の思考は現実から離れてしまうも、『今はそんなことをしている場合ではない』と、すぐに我を取り戻す。


 皆人の兄、龍一を助けなければ、多恵はそんな強い使命感に突き動かされ、迷わず扉に近づいた。


 タオルか何かで口を塞がれた龍一が、来るなとでもいうように、首を激しく左右に振る。


 『皆人くんのお兄さんを置いて、自分だけ逃げるなんて、そんなこと私には出来ない。』


 多恵は意を決して、その部屋に侵入した。


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