ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 多恵が元居た部屋に戻り、ドアを閉めると木戸は、掴んでいた手を離して多恵を解放した。


「大人しくしてれば何もしないと言ったはずだ。」


 木戸の表情に、もう先程の冷酷さは無く、今はただ、悲しげに見える。


「痛むか?」


 そう言って、木戸は多恵の赤く腫れた左頬に手を伸ばした。


「触らないで!」


 多恵は自分の両手で左頬を覆い隠し、木戸に触れられるのを拒んだ。


「ああするしかなかった。悪かった。」


 何故この男は、許しを請うような言葉を自分に向けるのか、多恵は不思議でならなかった。


「どうして謝るのよ!? 犯罪者なら犯罪者らしくすれば? 『ああするしかなかった』って何よ? 『俺はお前の味方だ』とでも言いたい訳? バッカみたい。そうやって私の気を惹こうとでもしてんの? 下心が見え見えなのよ。騙されるもんですか!」


 有りっ丈の怒りを木戸にぶつけた。


 再び殴られたって構わない、多恵はもう、自分の身体のことなどどうでも良くなっていた。


 とにかく腹が立って仕方ない、木戸に、富樫に、アツシに…


 そして龍一は、自分のせいで巻き添えを食ってここに監禁されている。


 龍一に対する申し訳ないという想いが、多恵を余計にイラつかせた。


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