幕末異聞―弐―
「……死ぬって言うな」
「…え?」
声の音量が突然小さくなった楓に、沖田は笑うのをやめ再度訊き直した。
「簡単に死ぬなんて言うないうてんねんアホんだらァ!」
木の上で羽を休めていた鳥たちが、楓の怒号に驚いていっせいに飛び立っていった。
二人の座っている場所には、その反動で枝から振り落とされた葉が数枚舞い落ちる。
「ど…どうしちゃったんですかいきなり?」
苦笑いを交えてなるべく穏和な口調で楓に話しかける沖田。
楓は沖田の顔を見て瞼を限界まで開いた。
「…いや、どうもせん」
「なんでもないなんてこと無いでしょう?!私の言葉がそんなに気に障りましたか?それだったらごめんなさい…」
「…じゃあ見張り一人でやっとれ」
「はい?!」
さっきまでの口調とは打って変わって冷静な声で喋る楓。ころころ変わる楓の表情と態度にいつもは彼女を振り回している沖田も今日ばかりは逆に振り回されている。
言葉を噛み砕くのに時間を要している沖田を無視して、楓は立ち上がり母屋のある方角を向いた。
「謝るっつーことは自分の非を認めて服従するいうことや。だから一人で見張ってろ言うとんのや」
楓は、ふんっと鼻を鳴らして目を細める。
「え?!!そんな…軽くごめんなさいって言うことにそこまでの深い意味は含んまれませんよ!」
沖田は手を頻りに動かして反論する。しかし、楓は沖田の言い訳に耳を貸さず、既に母屋に向けて歩き出していた。