幕末異聞―弐―
「今は入らぬほうがいいぞ」
「何故です?」
「不愉快になる」
「はは!それは嫌だな」
八木邸の離れにある蔵では、今日の新撰組の動きを左右する男の尋問が半刻ほど前から行われていた。
新撰組内外を問わず恐れられている副長・土方歳三が尋問を行っているとあって、蔵に近づいて来る者など今まで誰もいなかった。
「ここにいても少々不快になる。こんな重厚な扉の向こうからたまに悲鳴が聞こえてくる」
「あはは〜!流石は鬼副長。容赦ないですね!」
昨日、尋問を任されていた斉藤が、今日は朝から外の見張り役に回っていた。
見張りを始めてから一刻、本日初めて蔵を訪れた変わり者の沖田と一刻振りに言葉を交わす斉藤。
「…参加しないのか?」
「何にです?」
「隊服」
「ああ!なるほど!!」
断片的にポツポツと単語を出していく斎藤独特の喋りに、沖田は平然と付いていく。
「私はいつもギリギリまで着ないんですよ!すぐ汚しちゃうので」
「ふむ」
沖田の返答から考えるに、斉藤の言いたかった事とは“隊服を着ていないが、討ち入りに参加しないのか?”という内容だったようだ。
「顔色が優れないようだ」
「一さんが?」
「君がだ」
組長二人の会話はとは思えないほど緩い空気を孕んだ沖田と斉藤の話は更に続く。
「私ですか?そんな事ないですよ!」
「痩せた」
「最近真面目に稽古してるので、きっと引き締まったんです」
「…ふむ」
明らかに信じていない斉藤に沖田は頬を膨らませる。
「本当ですって!」
念を押された事で更に不信感を募らせる斉藤。だが、これ以上何か言うとまた面倒なことになりそうなので、何も言わずに頷いた。