幕末異聞―弐―
「では、私たちも…って一さん?!」
今の今まで沖田の隣にいた斎藤が忽然と姿を消した。
沖田は一回転して周囲を探すが、見当たらない。
――ギギィ…
「!!!?」
人の気配がない背中側から聞こえた木が軋むような音に、沖田の肩が一瞬痙攣した。
(う、後ろには蔵しか…)
「は…一さん?」
戦々恐々として古高以外誰もいないはずの蔵を振り返ってみる。すると、沖田は開いていたはずの扉がピタリと閉まっている事に気づいた。
(…見なければよかったー!!)
蔵に釘付けになってしまった沖田の目はみるみる涙目になっていく。幽霊や妖怪の類が苦手な沖田にとって、こんな怪奇現象耐えられるはずがない。
恐怖は全身に伝わり、足なんかはガクガクと震えていた。
「古高は死んでなかっ「ギャアァァッ!!」
蔵に体を向けて固まっていた沖田は、背中から聞こえてきた声に悲鳴らしい悲鳴を上げた。
「…何だそんな悲鳴を上げて?!」
斎藤が動揺して咄嗟に沖田から遠ざかる。彼が動揺している姿など滅多に見れるものではない。沖田は、珍しい斉藤の姿を見てようやく我に返った。
「は…一さん!!何処に行ってたんですか?!」
素早く百八十度方向転換し、沖田は斎藤と向かい合わせになる。