幕末異聞―弐―
「蔵の中だが?」
斎藤は当然のように指で蔵を指す。
「あんな一瞬で?!!」
「ふむ。別に一瞬ではないが」
「じゃあ、あの蔵の扉を閉めたのは…」
「俺だ」
沖田は、まるで鯉のように口をパクパクと開閉させて斎藤の両腕を掴む。
「…まさか幽霊とか?」
「!!」
勘の鋭い斎藤は沖田の心臓を跳ね上がらせる言葉を容赦なく浴びせた。
「やだな〜一さん!!私がそんなものを怖がると思っているんですか?!子供じゃあるまいし!あははは!!」
斎藤の肩を叩いて笑い飛ばす沖田だが、誰がどう見ても笑顔が引きつっている。
「涙目」
実直な斎藤は沖田が事実を認めるまで、彼の見た目でおかしいと思ったことを全て挙げるつもりらしい。
「……一さんに会えた感動でつい」
頑固で負けず嫌いな沖田も苦しい言い訳で白を切り通す。
「ふむ。まあそれは後でじっくり議論するとしよう。今は各々に与えられた使命を果たそう」
(いや、もう忘れてくれ…)
「そうですね。では行きましょう」
二人は揃って蔵を離れ、母屋へと向かう。
――六月五日、これが新撰組の昼の出来事であった。