幕末異聞―弐―
白の生地に黒のダンダラ模様の羽織。
そして背には漆黒の『誠』の背紋。
傍らには多くの苦難を共に乗り切ってきた愛刀・長曾祢虎鉄。
障子越しの淡い日の光を浴びて近藤は静かに瞑想していた。
――パシッ!
「近藤さんっ!!」
息を荒げて局長室に入ってきたのは古高の尋問を終えた土方であった。
近藤は、驚く様子もなく、ゆっくりと目を開き襖の前で立つ土方を見上げる。
「吐いたか」
「ああ。偉いことになってるぜ」
襖を閉めるのも忘れて土方は近藤の前に座った。
「あいつら、京を焼くつもりだ!」
「何だと?!!」
土方は、近藤にそれ以上の質問をさせないために、袂から一通の書簡を取り出してそちらに注目させた。
「細かいことはこれに書いてある。が、とにかく時間がねーんだ。俺が掻い摘んで説明する。いいか?」
「ああ。もちろんだ」
近藤は書簡を睨んだまま土方の提案を受け入れる。近藤の了解を得た土方は、息をつく暇もなくすぐに話し始めた。
「吉田らが属する倒幕派は、“祇園祭前の風の強い日を狙って御所風上を中心に京のいたる所に火を放ち、その混乱に乗じて将軍(徳川慶喜)、京都守護職を暗殺し、帝を長州へ連れ去る”という計画を練っているらしい!」
「そ…そんな事……?!!」
近藤の背中に冷たい汗が流れた。
「では会津藩邸は…松平公は!!」
自分たちに“新撰組”という立派な名を与えてくれた松平容保の命が狙われているという事実に近藤は何よりも衝撃を受けた。
不安と焦りが次から次へと押し寄せてくる。何を最優先に聞くべきか、どんな言葉を使えば適切な質問ができるのか。
一分一秒も無駄にできないはずなのに、思うように頭が働かない近藤。
「ああそうだ!遅くなると取り返しの付かないことになっちまう!
近藤さん、この書簡は会津に警告を促す内容と応援要請の申し立ての文章が書かれている。後はあんたの許可をもらうだけなんだ!」
土方はバンっと書簡に手を叩きつけた。