幕末異聞―弐―
沖田が自分の帰りを待ち構えているとは微塵も思っていない楓は、一刻ほどの巡回を終わらせ、八木邸の玄関に腰をかけていた。
「なんだ?いつもならすぐに部屋に向かうお前がこんな所に座ってるなんて珍しいな」
門前で数人の新人隊士と雑談をしていた永倉が玄関に入ってきた。
「…何か嫌な予感がするねん」
「予感?」
――……ト…ド…ドッドッ!
「…あ〜。なるほど」
遠くから聞こえてくる荒い足音からは怒りを感じ取れる。その足音wを聞いて永倉と楓は全てを悟った。
「じゃあ、うちはこれ「どこ行くんですか?」
遠いと思われた足音の犯人はいつの間にか楓の背後に腕組みをして立っていた。
「足音立てないように近づくなんて趣味悪いわホンマ…」
楓はがっくりと首をうな垂れ、めんどくさそうに永倉の顔を見る。
目線で助けを求められた永倉は苦笑いを浮かべるだけで一向に助けてくれそうにない。ここで楓を助けたら絶対に矛先は自分へ向くとわかっているのだ。
「悪趣味なのはどっちですか?源さんに告げ口して!お陰で私は貴方が帰ってくる直前までずっと怒られていたんですよ?!耳が取れるかと思いましたよ!!」
楓の後ろに立つ沖田は、先ほどの怒りを一気にぶつけるように早口で捲し立てる。
「そんな軟な耳あるか!とりあえずうちの言い分も聞けや」
額に手を当て、いかにも億劫そうに沖田の相手をする楓。
永倉は喧嘩した兄弟のような二人を見てどうにか笑いを堪えている状態である。
「ええか?うちはあのおっさんにはあんたがどこに行ったなんて言うてない。
そもそもあんたがどこに行ったなんてうちが知るはずないやん!ただあのおっさんに“総司はどこか?”って聞かれたからどっか出てんとちゃうか言うただけや」
一通りこれまでの経緯を説明し終わった楓は顔を上げて“わかったか?”と言わんばかりに大きなため息をついた。