幕末異聞―弐―

桂が向かった先は、河原町三条上ルにある対馬藩邸であった。
対馬藩と長州藩は反幕府の同盟を結んでいたため、両藩は頻繁に面会をしていたのだ。また、京に藩邸を構える対馬藩は、高瀬川を利用して船で物資などを運搬している事から、長州藩にとって心強い同盟相手となっていた。
今回桂が対馬藩邸を訪れる目的も、その物資の事で相談があったからだった。


「これはこれは桂殿!ようこそ御出でなすった!」

快く桂を迎え入れてくれたのは、対馬藩藩士の田中久米輔。
分厚い唇を横いっぱいに広げて桂を歓迎した。

「いきなり来てしまって申し訳ない。少し時間ができたもので。この間の物資の件で少しお話が」

「待った待った!!立ち話も何ですので、どうぞ上ってください」

陽気な田中は、ニコニコ笑いながら桂を奥の間へと半ば強引に誘導した。

「で、ではお言葉に甘えて…」


生真面目な桂は、田中の奔放な振る舞いに戸惑いながらも対馬藩邸に入っていった。



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