幕末異聞―弐―
「ちっ。まだ夜五ツか…」
土方は焦っていた。
――何としても今日、倒幕派浪士狩りを成功させたい。
そんな気持ちが、土方の判断を鈍らせる。
相手は何人いるかわからない。もしも、隊士の数より更に多い兵をあっちが持っているとしたら…?しかし、会津が提示してきた刻限では、逃げられてしまうかもしれない…。
考えれば考えるほど結論は遠ざかっていく。
「一から十番隊まで全て揃いました。いつでも出動可能な状態です」
万全の武装を施した五番隊組長・武田観柳斎が土方に追い討ちをかけるような報告をした。
「…よし、下がれ」
「失礼します」
土方の苛立ちを感じ取った武田は、早足で武装した浅葱色の群れの中へと消えていった。
(俺だって当の昔に準備はできてんだよ)
貧乏ゆすりをして何かいい手はないかと必死に思案する土方。土方の影響を受けてか、祇園町会所には異様な緊張感が漂っていた。
――ガラ…
「土方君、いくらここで考えていても答えは出んだろう!」
土方の気持ちを吹っ切らせるように勢いをつけて町会所の扉を開けたのは、白の隊服を羽織った局長・近藤勇であった。
「近藤さん…それは一体?」
珍しく弱気な困り顔をしている土方に、近藤は局長としてではなく、古くからの友人に向ける笑顔を見せた。
「此奴らは強い!」
近藤は一塊になっている隊士たちを指差し、自信に満ち溢れた目で土方を見る。