幕末異聞―弐―
「山崎は?」
土方組と別れ、黙々と四条通を進む近藤組。
「山崎さんと吉村さんは屯所の護衛だ。流石に山南副長だけじゃ守りきれないからな!」
浅野と楓は最後尾でヒソヒソと小声で話していた。
(山南副長もか。まぁ、土方の判断は妥当やろな)
「んで?何で薫ちゃんは出動なん?」
楓は少したるみ気味の浅野の横腹を突付きながらニヤっと笑う。
「クビじゃねーって言ってんだろ!ほら、こっちは人数少ないだろ?だから監察の中でも剣の腕が立つ奴を加えたらしいぜ?」
「万年うちに負けとる奴が剣豪とな」
自分が討ち入りに呼ばれたことで鼻が高くなっている浅野に対し、楓はその鼻を思いっきりへし折る。
「お前の強さは異常なんだよ!!」
「はあ?!!まるでうちが人間じゃないみたいな言い方やな?!しばくぞ!!」
緊張して口数が少なくなっている隊士たちの中、大声で堂々と喧嘩し始めた浅野と楓。二人の前を歩く隊士は皆、苦笑いをするか呆れていた。
「元気だな〜まったく」
最後尾から聞こえてくる喧騒の声に、先頭を歩く永倉は目を半開きにして疲労の色を見せた。
「あはは!いいじゃないですか。聞いてると和みますよ!」
永倉の隣で提灯を持って歩く沖田が軽く笑い飛ばす。緊張知らずの沖田は、あろう事か鼻歌を唄い始めた。
「…局長、何でこんな変人ばっかり集めたんですか?!」
永倉は、少し前を歩く近藤に本気で嫌そうな顔をして抗議する。近藤は、斜め後ろの永倉を丸い目で見下ろし、
「いいじゃないか?楽しくて!」
と白い歯を剥き出しにして笑う。
(((…この組、頭からして駄目だ)))
永倉を含めた七人の隊士は、背後の喧騒と先頭の鼻歌が混じった豪快な笑い声を聞きながら、更なる緊張感に襲われた。
「あ!そろそろ木屋町通とぶつかりますね」
提灯をフラフラと揺らしてご機嫌な沖田が店が立ち並ぶ通の向こうを指差す。
目的の場所は、着々と近づいていた。