幕末異聞―弐―
本当は気になっていた。
この深い闇に渦巻く何かが俺を不安にさせている。
酷く嫌な気分だ。
「こちらのお部屋になります」
店主が提灯を前掛けの帯に差し、俺をざわめかせる裏階段の斜め正面の襖に手を掛けた。
「最奥の部屋か」
「はい。この部屋が一番広いもので」
――スス
「…ここまで大の男が揃うと、特に広くはなくなるな」
「先生!お待ちしておりました!」
宮部さん、肥後藩・松田重助、長州藩・広岡波秀、佐伯靭彦、播州林田藩・大高又次郎、土佐藩・望月亀弥太、皆幕府から倒幕過激派の危険人物と言われている者たち。
今回の計画に携わってきた同胞。そして、部屋の中には危険を冒して此処まで駆けつけてくれた二十余名の同志が所狭しと座っていた。
だが、一番見知った顔が見当たらない。
「宮部さん、桂は来ていないのですか?」
「…はい。残念ながら」
「そうですか」
(結局お前と俺とでは考えが違いすぎたのだな…)
「先生、時間がありません。早速会合を始めましょう」
「ええ」
誰かが気を利かせて行灯を部屋の中央に移動させる。
その光は、円となった同志の顔を照らした。
――そう、今度こそ俺たちが光を浴びる番なのだ
「では、今回の計画の実行日時と詳細について話します」
この時、同志たちの力強い眼を見ても、何故か俺の中のざわめきは納まらなかった。