幕末異聞―弐―
――河原町通
「いや〜、このご時世に駕籠運びはきついなぁ」
「そうは言っても、家族がおるから辞められんわな」
丸太で作られた持ち手を肩に担ぎ、三味線や手拍子の聞こえる夜の河原町を颯爽と走る駕籠屋がいた。
駕籠には誰も乗っておらず、駕籠屋の二人は乱暴に運ぶ。
「今の三条小橋で下ろしたお侍様は噂に寄ると大物攘夷志士だとか…」
駕籠の前方を走る男が後ろの相方に、本気とも冗談とも取れる真顔を見せた。
「お〜怖や怖や!あんな大人しそうな顔して攘夷志士とは、世の中顔じゃ何もわからんな」
駕籠の後方を担ぐ男は、大げさに身震いをしてニヤリと笑う。
「そうや…うん?」
「…どないしはった?」
前方の男が何やら頻りに首を左右に振っている。後ろを走る男も駕籠越しに前をじっと見つめた。
「あ…ありゃっ…壬生狼やないか!」
駕籠越しからは、夜も本番となり人通りの少なくなった河原町通のまん中を堂々と闊歩する集団が見えていた。
「間違いねぇ!あの羽織、壬生狼だ!」
前を行く男の視界には、不規則に揺れる手持ち提灯に照らされる浅葱色の羽織が映っている。その時、後ろの男がふとある事に気づいた。