幕末異聞―弐―
「う…うわあぁぁあッ!!!」
極度の緊張感と命の危機に耐えられなくなった浪士の一人が、奇声を上げて隣の部屋へと繋がる襖を蹴破って逃げ出した。それを皮切りに、抜刀して構えていた浪士が続々と隣の部屋に流れ込む。
「私は奥に行きます!」
近藤の肩を叩き、素早く破壊された襖の向こうへ走り出した沖田。
「「うりゃああぁぁ!!」」
一人になった近藤目掛けて数人の男たちが一斉に斬りかかる。
「甘いわーー!!」
「ぐわっ!!」
「ぐああぁぁ…」
瞬時に抜刀した近藤は、数人の浪士相手に一歩も動かず、僅か二太刀で切り伏せた。
近藤の太刀の威力に恐れをなした浪士は、額に汗を滲ませ、恐怖に顔を歪ませる。
「し、死にたくねーッ!!」
数人の攘夷浪士が涙を流して窓に向かい、裏庭へと決死の覚悟で飛び降りた。
だが、裏庭にも新撰組隊士・奥沢栄助、安藤早太郎、浅野薫の三名が待機している。また、正面玄関には武田観柳斎、谷万太郎が待ち構えているため、この旅籠の敷地内から逃げる事は容易ではない。
正に袋の鼠とはこのことである。
五人ほどになった大部屋に、裏庭からの断末魔が聞こえた。近藤は、大分広くなった大部屋を見回す。
(どこからやってくる?)
一瞬たりとも気の抜けない状態が続く。攘夷浪士たちも、誰からこの剣豪に挑むかお互いを探っていた。