幕末異聞―弐―


「おい楓!ぼさっとしてないで働け!
俺は裏階段に行くから、平助は中庭を!部屋の間にある吹き抜けを使って浪士が飛び降りてくるはずだ!」

迅速に屋敷の構造を把握し、浪士の行動を予測した永倉は、的確に指示をとばす。案の定、一階の土間から見える中庭には、既に数人の浪士が二階から飛び降りて来ていた。

「八っさん!こんな人数捌き切れないんじゃない?!」

抜刀した藤堂が月明かりだけを頼りに中庭に駆け出す。

「甘ったれたこと言うなや馬鹿助!!出来ないことでもやらなきゃいけんのや!踏ん張れボケッ!」

気持ちの昂りを抑えきれない楓は、いつも以上に酷い言葉を使って藤堂を罵る。
階段を下りてきた浪士たちを恐れず突進する楓の姿は、正に猪そのものであった。


「わかってるよ!」

楓の罵倒に奮起した藤堂が、中庭の白壁をよじ登る浪士を一文字に斬り落とす。

(…しかしどんだけいるんだ?!平助じゃないが、流石に三人じゃ厳しいものがあるぞ?)

近藤と沖田が上っていった裏階段の下で敵を迎え撃つ永倉は、この時既に三人斬っていた。しかし、一階を目指す足音は止むことを知らない。

「くそッ!」

壁に唾を吐きかけ、飛び降りて来た浪士と刀を交える永倉。

暗闇の中、各場所で金属音と蒼白の火花が散っていた。




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